バリデーション
→認知症の高齢者との「コミュニケーション」を図るための方法の一つ。
治療とは異なり、認知や見当識の状態をよくすることや、認知症による症状を改善することを目的とはしていない。
バリデーションでは、死が訪れるまえにやり残した仕事を片づけてしまおうと、一生懸命奮闘している認知症の高齢者に対して、「尊敬と共感」をもってかかわることを基本としている。
1.センタリング
センタリングとは精神を統一、集中させること。
すべてのバリデーションのセッションは、このセンタリングから始まる。バリデーションのセッションでは、高齢者とかかわるとき、「われわれのニーズを脇に置いてかかわること」とされている。
センタリングは、このわれわれのニーズを脇に置こうする際、非常に有効。
われわれのニーズとは、“高齢者に落ち着いてもらいたい“穏やかになってもらいたい”など、“高齢者に変わってるらいたい”と求めてしまうことを指している。
このわれわれのニーズは、あらゆるかかわりのなかに潜んでいると考えられる。
しかし、このニーズを前面に押し出した状態では、高齢者に共感することは困難である。
そのためセンタリングによって,自分自身の中にあるニーズや感情を、解き放つことが必要不可欠。
→まずは、「呼吸法」でセンタリング
2. 事実に基づいた言葉を使う
ある状況の事実をつかむために「だれが」「なにを」「どこで」「いつ」「どうやって」というようなオープンクエスチョンを使って質問する。
しかし、高齢者に自分自身の感情や行動を無理やり直視させるような、「なぜという質間は避ける(例:×「なぜそんなことをしたの?』。×「なぜそんなことが起こったの?」)。
オープンクエスチョンは、高齢者の感情やニーズを探求していくためにとても重要な言語的テクニック。
以下にオープンクエスチョンのいくつかの使用例を示す。
①「子どもが泣いている。もう家に帰らないといけません」
・子どもさんは何と言って泣いているのですか?
・帰らなかったらどうなりますか?
・子どもさんになにをしてあげたいですか?
・子どもさんはどんな子ですか?
・泣いている子どもさんに何と言ってあげたいですか?
②「あの人は、いつも私のものを盗んでいくんです」
・なにを盗まれたのですか?
・どうやって盗んでいくのですか?
・いつ盗んでいくのですか?
・あの人はだれですか?
③「お腹がすいた。ご飯をぜんぜん食べさせてくれないの」
・なにを食べたいですか?
・だれが食べさせてくれないのですか?
・いつから食べさせてくれないのですか?
・体のどこでそれを感じますか?(食べ物ではなく、なにかに飢えている)
④「あそこにお母さんがいる。あそこに行かないといけない」
・あそことはどこですか?
・お母さんはなにをしているのですか?
・あそこに行かなかったらどうなるのですか?
・どんなお母さんですか?
・お母さんのところに行ってなにをするのですか?
・お母さんになにがあったのですか?
⑤「ここのご飯はひどい」
・どんなふうにひどいですか?
・どんな味がしますか?
・だれが作ったのですか?
・いつのご飯がひどかったですか?
・最悪なのはなにですか?
⑥「あなた、そんなことしてはいけなかったわ」
・なにをすべきではなかったのですか?
・私はなにをしましたか?
・私はどうすればよかったですか?
・なにをしてほしかったですか?
・だれにしてほしかったですか?
⑦「押入れの中に男の人がいるんです」
・どんな男の人ですか?
・男の人はなにをしているのですか?
・男の人はなにをしようとしているのですか?
・男の人はなにか言っていますか?
3. リフレージング
相手が自分の言うことを繰り返して、それが確認されると安心するため、同じ言薬を繰り返すようにする。
この際、声のテンポや調子もできるだけ本人と同じようにする。
4.極端な表現を使う
高齢者の不平や不満を、最も極端な例を示して尋ねる。
自分の経験を大袈裟に言い返されると、より感情を表出しやすくなるため
(例:「すべてを忘れてしまったらどうなるのですか?」「いつも責められていたのですか?」)
5. アイコンタクト
目線を合わせ、精神を集中し、心を込めて相手の目を見つめる。
上から見下ろしたり、下から覗き込んだりはしない。
6. あいまいな表現を使う
相手が意味のわからない言葉を使う場合がある。
そのような場合に、「あれ」「そこ」「なにか」「だれか」等の代名詞を使用して質問する
(例:「なにかを集めているのですか?」「だれかが言っているのですか?」「それは大切なものですか?」)
7. 反対のことを想像する
反対のことを想像することによって、若いころに苦しみや困難から立ち直るために使った方法を、思い出のなかから導き出す手助けをする(例:「悲しくないときはありますか?」「盗まれないときはありますか?」「家に帰らなければどうなるのですか? 」)
8. 思い出話をする
過去を尋ねることによって、過去に用いていた方法を思い出して利用することができる。
『反対のことを想像する」テクニックと、よく一緒に使用される(例:前項「盗まれないときはありますか?」→「盗まれなかったときにはなにがあったのですか?」)。
9. はっきりした,低い調子の声を使う
はっきりしない高い声は、多くの高齢者にとって聞き取りにくい。
はっきりとした低い声で、思いやりを込めた調子で話す。
ただし、怒りで高齢者の感情が高ぶっているときなどは、ゆっくりと落ち着いた調子はそぐわない場合もある、高齢者の感情にあわせた調子であることが大切。
10.ミラーリング
共感を込めて、高齢者と同じ行動をすることで、高齢者の感性の世界に入り込む。
しかし、この方法は、十分な集中と共感がなければ使うべきではない。単なる真似をするだけになってしまいかねないから。
11.満たされていない欲求と行動を結びつける
人間には、「愛し愛されたい」「役に立ちたい。認められたい」「感情を表出したい」など、基本的欲求がある。
高齢者の行動が、それらのどの欲求とつながっているのかを見極めることである。
12.好きな感覚を用いる
人はだれでも,好きな(得意な)感覚があるとされている。視覚(見る,絵など)、聴覚(聞く,うるさいなど)、運動感覚(触れる,痛む,感じるなど)のうち、どの感覚が好みであるか見つけて働きかける。
13. タッチング
バリデーションにおけるタッチングは、単に身体に触れるということではない。
タッチングをするときは、必ず高齢者の正面からアプローチし、慎重に優しく触れる。
後ろや横から近づいて驚かせてはいけない。
そして、どのようなタッチングがどのような人に役立つのか見極めが必要である。
共感が伴ったアンカードいい(ココロに届くような深い)タッチは、高齢者と親密な関係を築く助けとなる。
14. 音楽を使う
言葉を失ってきていても、幼いころの歌は悩えていて歌える場合がある。
たとえ歌えなくても、音楽は高齢者とつながり、コミュニケーションを図るうえで、非常に役立つことがある。
15. キャリブレーション
集中して相手に焦点を合わせ、相手の感情と自分の感情を一致させていくプロセス。
相手に合わせるよう自分自身を調整することが必要とされる。
まずは観察して、高齢者がなにをしているか、高齢者にとってなにが起こっているか探索し見極めることから始める。
深津亮 先生
山口病院で長年にわたりお世話になった認知症専門の恩師の先生です。
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奥平 智之
日本栄養精神医学研究会 会長
医療法人 山口病院 副院長
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